19〜20歳の時に書いた文章

きっと私のブログは誰も読まないので、こういうものを載せてみようと思う。私が作るような作品でアーティストとして活動している場合、ある意味で私がどういう文章を書いているか、どういう内容を書いているかという事が、作品の観察者にとって重要になるような気がする。もちろん基本的にはこれは自意識過剰な考え方であり、どっちにしても、私が何を言おうと、世界は変わらない。(私はあえて、私が何を作ろうと、世界は変わらない、とは言わない。言ってはいけない。。。)とにかく、これらの文章、そしてこれから時々載せるであろう私の古い文章は、私の現在の作品とは関係がない。もしくは私が書いたという事実のみが関係だ。ただ、とりあえず、私が若い時に書いたのだから、稚拙だろうが、他人の影響が明らかだろうが、それはそれでいいのだろう。うん。それでいいんだ。

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昔のノートより

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霧の向こうにうっすらと見えるのは、確かに数年前の僕でした。
霧の向こうからは中学生の頃によく聴いた歌、もう死んでしまった犬の白の声、隣の猫に食べられてしまったジュウシマツのさえずり、そして母の声が聞こえます。
そのうち雨が降り始めれば全てが流れてしまうでしょう。

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雨降る日には琴を弾く
黒い瓦からきらきらと
しずくが跡絶えることなく落ちている
縁側の戸の溝に水がゆっくりと
深く染み込んで行くように
琴の響が私の皮膚から
魂へと染み込んで行く
雨降る日には琴を弾く
竹の葉がしとしとと音をたて
池がちゃぷちゃぷと音をたてる
そして音もなく土の中へと

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水滴がそこだけ時が何倍も遅いかのようにゆっくりと地面をつたっている。 地面にこびりついた歴史が、その水滴に浸食されるや、粒子となって融け散って行く。 水滴は限りない歴史を、それが蒸発しきるまでどこまでも運んで行く。

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蝉の声に四方を囲まれながらも
もう紅染めの終わった濃紺の空が満天に広がっている。
どこかで風鈴が鳴り始める頃
私は垣根に絡み付いた夕顔の花を見ていた。

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転がっている石ころの形、道路脇の草の生え際、アスファルトのすき間に入ったガラスの粒。そんなものばかりを見ていた。空が雲一つ無い青空であろうと、重く雲が立ちこめ雨が激しく降っていようと、そんなものばかり見ていた。プラットフォームにこびりついた黒いガムの塊を見ながら、私は思った。自分を見たくて自分に触れたくてしょうがない。上を見ても自分はいない。だからいつも下を見て何かを探しているんだ。
そして、空を一直線にかすめる一匹の黒いツバメ。

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真夜中の 列車の窓に刺す光
喜び舞いて 流れゆく

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終列車 くすみ沈んだ靴ならべ
今日のあのこと そのこといずこ

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影は思い出であり
光は流れゆく時である

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雪の下には 何がある
春になったら 分かります
今はただ
静かに そして 真っ白に

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ガムの包み紙は、ガムが人間の口へと役立ちにいくまで、彼を守って
彼の仕事が終わったら、また彼を包んで
彼と共に、捨てられる。

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物思い めぐらせながらも
前歩く 美少女の足に 目を奪われる

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私はいつも何かから逃げてはいないだろうか。自分を傷つける何か、自分を縛りつける何か。いったい私は何から、何故に逃げているのか。それが恐ろしくそして何より、自分の無力が恐ろしくてならない。自由の海などでは、とうてい泳げない。葛藤がそれとして、そこに存在しているおかげで、生きていられるのかも知れない。やはり、恐ろしいのだ。

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かすかな羽毛が冬の空に舞っている
風は冷たき大河のごとく流れ
かすかなる羽毛を何処へともなく運んでゆく
かすかなる羽毛がかかえる歴史の重さよ
風は冷たき時のごとく流れ
かすかなる羽毛をさも軽やかに追いやる

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光の粒子は私の肌にぶつかっては
飛び散り そして私の目にとびこむ

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夜明けのカゲロウよ
その輝きと純粋に満ちた身体よ
時の失意に汚されても
なおその崇高を失うことなかれ

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君去って
なおこの部屋にただよへる
香に酔ひて 今眠る

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太陽の光が私の肌の細胞の壁から体内に入り込み何かをしている
体液達は光と闘っているようである

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その見知らぬ女の私を見る濁ったまなざしは、彼女に起こった昨晩の愛しき心の傷を訴えかけていた。

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上野の汚い駅の階段に、何処かの少女が落としたのか、小さなおはじきが一つころがっていた。

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散乱しているタバコの吸い殻を、ひとつひとつ爪先ですりつぶして、中に残っている葉を、辺りにひろげた。
縮れた茶色の死骸達は、静寂の旅に出る。
風に流れて、風に流れて。

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私の目の前に釣竿をもった青年が座っている。列車と共に走り続ける外の光を、その黒光りした身体に照らしながら、私にその存在を訴えかけている。
人はなぜ釣を楽しむのだろう。狩猟民族の血が沸き立つのか。水面下に潜む秘密の何かを見たいという覗き趣味か。見えないものへの憧れ、そしてその見えない秘密の何かが、自分の体の化身となった鋭い針に触れる時、自分はその秘密と一体化し、それを自分につなぎ止める。自然から秘密の何かを奪い、それをつなぎ止め支配する。
私も釣は好きだ。

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猿 “の” 木から 落ちる落ちる
猿 “の” 木から 落ちる落ちる

二人の子供は、母に見守られながら
列車のとびらの脇についている
縦の手すりを、登ったり落ちたりしている

猿 “の” 木から 落ちる落ちる
猿 “の” 木から 落ちる落ちる

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襲い来る
暗黒と混沌に
火を灯せ

何かに注目した時、そこに潜む何かを見ようとした時、いつも不意に、得たいの知れない暗黒が渦を巻いて襲ってくる。ただ冷静に観察をしている時にはそんなことはないのだが、ひとたび秘密の宝を取り出そうとすると、その暗黒が襲ってくる。まるでその秘密の宝を守っているようである。城壁か怪物かそれとも迷路か、私が私であることを根底からくつがえす程のエネルギーと混沌を、それは握っているようである。私はいつも条件反射的にその暗黒の渦を押し込めてしまう。ただ、ただ、その暗黒の渦に呑まれてしまうのが恐ろしい。しかし、その渦の中には何かがあるような気がしてならない。確かに私は恐れながらも、その渦に魅了されている。そこに飛び込めば、何かがつかめる、何かが見える、かもしれない、と言うものの、やはり私には勇気がない。私が私であること、今までの私の記憶、私を支えてきたもの全てを失うような気がしてならない。

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ハッと気がつくと、それは私の顔であった。
終電車の暗い窓に映った私の顔。
その「ある時間」がよく思い出せない。
私の顔が私の顔であったのかどうか。

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誰も皆、自分の名前を叫びながら生きているようなものである。
自分の存在が無かったら、その他全ての存在はないのであろう。

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妖艶の 夢の枕の鴬よ
姿はいずこ 香りただよふ

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時の間に 満ちては欠ける 月なれど
夜に頼るは それのみぞかし

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住み人の 心の花はうつろへど

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主人公に置き去られた記憶は、そのまま死に切れない亡霊のようである。

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暮れ迷ひて
君の言葉に我さがせども
死せる蝶の ただ舞うばかり

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一緒に行くつもりでなかったのに、偶然に一緒になってしまったあの時のこと、幼い頃になくした大切な何かを見つけたときのようでした。 となりにあなたがいないことが不自然なくらい、この道はあなた色に染まっている。 日光に向かうこの列車、この通りには、あなた以外の人の記憶がない。 数え切れない程のあなたとの思い出の中で、最も桜色の思い出はこの道で生まれた。 今では、それらは、遠く遠くはるか彼方の霧の向こうで鳴いている、しらさぎの声のように、とてもはかなく、またいとおしい。 もうあなたが、この道で私のとなりに寄りそうことは無いのだろう。 深く沈んだ山々が、あなたの香りを私の前に運ぶ。 私からあなたを奪ったものは何だったのだろう。

支那を旅する あなたの息が
日光に向かう わたしの素肌をおおう
細胞が まだあなたを感じている

ちょっと景色に目を奪われている隙に通りすぎてしまったのでしょうか、あなたと一緒に入った、あのおばあちゃんの食事処を見逃してしまいました。 あの教会もあの神社も工事中でした。どうするつもりなのでしょう。 相変わらずこのバスは揺れます。 歩こうと思ったのだけど、あなたがいっしょにいないので。

今、やっと「かつらぎ館」に着きました。おじさんは部屋の掃除をしています。 今朝、雪が降ったそうです。この時期には珍しく、一面の雪景色です。中禅寺湖には霧がかかり、その向こうにはうっすらと、しかし確かなエネルギーを持って、日光の山々が横たわっています。

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小さな窓から光が差し込んでいる。
時間のように絶えず舞っているチリに、
その光は身を任せている。

この小さな窓を覗けば、
私がこの部屋から閉ざした何もかもが見えるだろう。

全ての感覚を失ったこの部屋の小さな窓から
光が差し込んでいる。

光に触れると、温かい。

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夢見る 少年
光りあふれる 縁側に
羽毛 舞い立ち
ただひとり 座る

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竹のざわめき
竹の香り
十姉妹のさえずり
私は歌う
雲が静かに流れ
高く青い海を
二匹の燕が横切り
私はほほえむ

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私がこよなく愛するのは
自然の音の流れに
静寂の音楽をのせること
そして私は、浮き草のように
身をまかす

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