昔のノート再び

昔のノート:2

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歩けない 雀をそのまま
残して歩く

忘れ去る
我が身を染める
傷を思う
君の香りの
離れがたきは

ただひとり
人の視線も無いままに
髪をかきあげる

ただ ただ
終わりのない 下水道

座ることが出来ずに
ただ 歩く歩く

線香花火の
落ちて消えてなくなる

鏡に映る自分の永遠に続く道

秒のざわめきただくり返す

目の前に 鏡に映る自分がいる

落ちた雛 飛べ飛べ

いつも私を見ている目の涙

夜深く
霧にただよふ
香水の色

鳴らない電話の 向こう側

蟻が一匹 私の足についている

見えない原点を見る私の目
点は本当は見えないもの

にじんだ夢
点の記憶と 線の物語

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BBC、洗礼、水の幽霊達 (ある日見た夢)

我々はここら辺のキャンプでは最悪の収容所へ入れられることになった。場所は、中近東か?砂漠の中の少し低木や草などが生えている丘の上である。我々は毎日労働をしながら共同生活を送っている。典がいる。。。
省略;要素を挙げる。。。

  1. 原始的な神が存在していた頃の、控えめな、しかし確信的な魅力と輝きを持った人物。
  2. 額の真ん中、右、左の三か所にキスをする、という洗礼方。
  3. 霊の駆除。そして、水になって逃げて行く霊。
  4. 顔面から血を流し続ける、霊界の無法者の復讐。
  5. 霊が、人間の捕虜にそれぞれの役割に従わせるために懸ける霊力。そのときに、一瞬半透明になる身体。
  6. 典子は解放される。
  7. 霊力に懸かりきらずに、従う振りをする自分。
  8. バザーの中への逃亡。そして、典子に会いたいと思う自分。
  9. 砂漠を抜けて街にたどり着く。何もなかったように、その活動を続けている街。

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ラヴェル自身が否定的であった彼自身の作品でさへも、私を押し倒すには充分であった。また、その楽譜と格闘する。

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寝転んで、ふと胸の上にCDのケースを置くと、
開いたまま閉じられない洋服ダンスの中の天井の隅に、
光りがはね返った。
普段は見たこともない、考えたこともない場所から来る光。
別れた彼女から一本のテープが送られてきた。
ただ一曲だけ。一曲だけが流れて、終わった。
偶然に照らされる反射光。ただ一曲だけ。
ただ一曲だけの手紙。
流れて、終わる。

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産み出すためには 暗黒の静寂が不可欠だ
静寂の音楽

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現実を見てはならない
視線は 通り抜ける
霊が私の脳に卵を産み付ける

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ある夢より

水際に女が倒れ込んでいた。水中に浸されたその透きとおった右腕が、スーッと岩影に引き込まれては戻ってくる。揺れ動く水藻のような右腕。岩の合間から覗き込むと、何か青いもが見える。水の中に入って見てみると、それは濃い青をした、それでいて半透明という、えも言われぬ色をしたウツボであった。私の視線が素早く後ずさると、ウツボはその女をさらっていった。海水は透明だが、一面に広がる岩やサンゴの間がかなり深くなっているらしく、徐々に濃紺となって消えてゆく。 そして私の視線は、海面数十メートルも上空へと移動した。 私は女を探した。しかし水中には真っ赤な魚のようなものが何匹か泳いでいるだけであった。私はその赤い姿が、青いウツボが女の聖なる血に染まりながら泳いでいるようにも見えた。 しかし、その瞬間、そうではないことに気が付く。 数匹の赤い魚が少し深いところで泳ぎ回っている所から、右の方に少し離れた水中に突然青いウツボが現われ、一瞬透明になったかと思うと、次には全身に金色のぶちのある真っ赤な、小さなジンベイザメに姿を変えた。 そしてその崇高な身体は水中深くへと舞い戻っていったのである。

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母親が隣で、たった今ゆで上がった栗を剥いている。ゆで上げられたその焦げ茶は、ほのかに赤く輝いている。その深い生命にあふれた色だけが、私の眼に焼き付いて、それ以外を凝視できない。
もう見えない。
既にひびのはいった頭に包丁の刃がメリッと音をたててのめり込み、力ずくで剥がされる。
包丁の刃が次々と皮を剥いでゆく。
もう見えない。
私の眼と、母の持つ栗の区別がつかなくなる。
鋭い刃がつき刺さる度、私はとりとめのない話をいっしょうけんめいしながら耐える。
もう見えない。
刃が私の眼に。
もう見えない。
ただただ、はがされる。
赤く輝くその焦げ茶の栗。
くり。
くり。
頭が水平に割けていく。

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ヤモリ

私の壁の振り子時計は
延々と音をたてながらも
一向に針が動く気配もない
時間に置き去られた振り子

ガラスでできた 電灯を囲むケースに
ヤモリが侵入して 出られないでいる
外はとっくに 冬の真ん中
ここは温かいが 出ることはできない
冬には そとに 出られない

音がガラスの冷たい破片になって
飛び散る
そして 温かい 柔らかい 水に
流されて 流されて

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水槽

肩に触れる
水を滑る 指先

耳元をかすめる
冷たい魚の 息づかい

目を開いたら
身体の中の魚が逃げていく

何千枚もの鱗が
私の世界を覆っていく

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冬の空

何ひとつ動かない
動かない 冬の空

冬の大気が 北極から
私を迎えにきたのだ

死者が静かに眠る
冷たい夜空に触れる

生活のない
ガラス空の冬

私の肌が 木々の産み出した大気と
徐々に 徐々に 同化してゆく

眠る間に、冬の月は私の脳を洗い流してくれる。
その冷たく青いまなざしは、私の記憶を洗い流してくれる。
冬の月の光に、流されて眠る。

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私が彼の行動に全精神を集中すればする程、この時計の音が心臓の音のように大きく鳴り響く。
水道の水の止まらない音。コップに注ぐ。口に含み、何回もゆすいだ後に吐き出す。
床のきしむ音。 そして呼吸。
全てが、私の経験を変えてゆく。
もう目を向けられない。 逃げてしまいたい。
考えているだけでも、私の全人格が崩れてゆく。
もうこのことを、字にすることは無いかもしれない。

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双曲線的生活

くちびるが あなたの記憶を探している
肌が あなたの記憶を探している
振り返ることのできない記憶が
くちびるに 積み重なる

あなたの存在が 私の存在を失わせる
あなたの前では 何も見えず 何も聞こえない

触れた髪の記憶

何気なく 握ったあなたの髪の香りが
私の神経細胞を 支配しはじめた

あなたに触れられた細胞だけが 成長できない

夢追ひの影 閉じた目のなぐさみごと
なし崩しの記憶

あなたといっしょにいた時間が
今も生き続けて
死に損ねている

夜になると全身にあなたの記憶が蘇ってくる
肌の香りが 触れそうで触れないくちびるが

あなたと共有していない未来の
あなたと共有しえない感覚の時に
あなたと共有しえなかった記憶と共に
そのままのあなたが うかびあがり
わたしに涙を流させるような気がする

あなたがどうでもよくなってしまうのが恐ろしい
この記憶がどこに蓄積されるのか教えて欲しい

全てが単なる私の記憶になってしまうのだろうか
記憶にならない幻影は 私に私を見せつける

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私は、昔からある程度自殺について考えを持っていたが、あくまでも非現実世界のことのようであった。今、これから自分が生きてゆかねばならない理想と現実を前にして、自殺という言葉が初めて身近に、親しみをもってちらつきはじめた。私は、いつでも、逃げようか逃げまいか迷って生きてきた。時には逃げてしまい、また時にには逃げずに生きてきた。そういう自分を見直すと、自分には最終にして最大の、そしてもう迷うことのなくなる、「自殺」という「逃げ」が保証されているのだ。安心していいのではないか? 自分はいつだって死と隣り合せている。逃げるか逃げないか、逃避と挑戦は、選択されるものではないかもしれない。逃避とは、挑戦のための保証なのだ。逃避と挑戦は、対立するものではなく、ましてや勇気などという野蛮な感情を持って選択されるものではなく。常に逃避を見つめながら挑戦するのだ。

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